賃借している店舗をバリアフリー化したいのですが、どうすればよいですか?
もっとも、バリアを解消する為には何ができるか、貸主や借主は、ご当事者の意見も参考に、建設的な話し合いを通して、実現の道を探ることが重要です。
目次
社会的背景~国土交通省のガイドライン等
いわゆるバリアフリー法に関し、国土交通省は、2021年3月「高齢者、障害者等の円滑な移動等に配慮した建築設計標準」として設計ガイドラインを策定・改正しました。
ガイドラインは法的義務ではないものの、比較的小規模な店舗について、バリアフリーを図るための考え方や留意点が示されました。床面積毎の区分等により、建築物移動等円滑化基準や自治体毎の実情に応じた条例等に留意してください。
社会的背景~障害者差別解消法、民間事業者の合理的配慮義務
また、2024年4月からは、障害者差別解消法により、過重な負担がある場合は除き、障がいのある人が必要とする「合理的配慮(=合理的な調整)」を行う法的義務が生じます。なお、同法で事前に環境整備する規定は、努力義務に留まっていますが、具体的な場面に即して、建設的に対話し、障壁除去の取組みを重ねる必要があります。
工事に関する契約事項の確認
ご質問の点ですが、当該出入口改修など、工事を希望されている位置が、賃貸の対象となる区画か否か、また、改修工事を行う場合の手順、業者の選定や費用の負担など、契約事項をまず確認ください。
対象箇所が、建物駆体構造に関連する場合などもあり得ます。特段契約による定めがない場合であっても、通常、賃貸人や所有者の許可を要します。
子どもや妊娠中の方、乳幼児との移動等、バリアフリーを考慮すべき場面も多様です。工事については、自治体の補助金などが利用できる場合があります。
工事に関する諸条件の確認
明渡しの時、後日のトラブルを避けるためには、明渡しを行う時点での原状回復の態様や、有益費の請求ができる場合であるかなど、諸条件などについて確認をしておくと良いです。
共用部分等のバリアフリーについて
出入口の外側にある敷地内の段差など、賃貸借契約の直接の対象でなかった場合はどうでしょう。
契約に明示の規定がない場合も、共用部分が、賃貸借契約に付随して使用収益できる部分といえる場合があります(判例参照*1)
一般論としては、そのような共用部分について、賃借する店舗の利用に不可欠であることなどから、賃借人が賃貸人に対して改修工事を求めることが可能な場合があります。
そして、賃借人自ら費用を負担して工事を施工する場合は、所有者等の許可を要することなどは前記同様です。
特段の定めがない場合~費用の負担について
では、特段の定めがない場合に、賃貸人に対して、バリアフリー工事を求めることはできるでしょうか。例えば、ガイドラインに準拠していないことを認識し、また、そのような物理的形状のため賃料が抑えられている場合は、修繕を求めることが困難な可能性があります。(*判例参照*2 但し、耐震補強工事に関する事例)
本件の場合
本件では、現にバリアの存在から利用ができない方や著しく困難な方がいることから、その利用には支障が生じている状況かと思います。賃貸人に対して、修繕工事を求められるかは、賃貸借契約の当時の状況や経緯等、また、契約当初の賃貸人や賃借人の認識の内容、合意の内容や趣旨なども十分検討したうえで判断される必要もあります。
おわりに
テナントや当該ビルを利用しようとする個人の方に対する合理的配慮義務を実践する観点から、敷地内に可搬型スロープの設置することなど、次善策として実行可能な他の手段の検討も必要です。
バリアフリーは、
建設的対話が求められる分野ですので、話し合い、状況によっては、民事調停、ADR等を通じて、相互に協力してハード、ソフト両面のバリアフリーを実現してゆくことも大切です。
- *1 ウエストロージャパン
平成21年(ワ)第31962号東京地裁平成21年12月15日
*2 D1-LAW.com
平成18年(ワ)第1713号京都地裁平成19年9月19日
平成21年(ワ)第12607号/同16273号東京地方裁判所平成22年7月30日
※この記事は、2024年3月19日に作成されました。