店舗を居抜きで借りる際の注意点を教えてください。
新たな借主となるための契約
居抜きで店舗を借りる方法としては、大きく以下の二つが考えられます。
① 前借主が貸主との間の賃貸借契約を合意解除し、あなたが貸主との間で新たな建物賃貸借契約を締結する方法(本稿では「解除再契約型」といいます。)
② 前借主の借家権をあなたが譲り受ける方法、つまり、従前の建物賃貸借契約の借主の地位をそのまま承継する方法(本稿では「地位承継型」といいます。)
解除再契約型では、貸主と新たな借主との間で、賃貸借契約を締結します。そのため、賃貸借契約期間、賃料・敷金・保証金の額、原状回復義務の内容等は、新たな借主と貸主との間での協議によって決まります。
地位承継型は、前借主の契約内容、つまり、契約期間、賃料、敷金・保証金の額や原状回復義務の範囲・内容等をそのまま新たな借主が引き継ぐことになります。
なお、いずれの方法による場合も、店舗内の造作・設備は、前借主を売主、新たな借主を買主とする売買契約を締結して、それらの所有権が新たな借主に移転されるのが一般的です。
原状回復義務の範囲・内容の承継に関する注意点
建物賃貸借契約では、借主は貸主に対し、契約が終了した際に、建物の引渡を受けた際の原状に復して明け渡す義務を負います。
しかし、居抜きで店舗の造作・設備が譲渡された場合、新たな借主が建物の引渡を受けた時点の原状とは、造作・設備が設置されている状態となります。そのため、いかなる原状に回復すべきかが不明確で、原状回復義務の範囲や内容を巡って貸主・借主間で紛争が生じてしまう場合があります。
そこで、居抜きで店舗を借りる際には、新たな借主の賃貸借契約が終了した際に、どのような範囲・内容による原状回復義務を負うのかを明確に合意しておく必要があります。
居抜きによる借家権の譲渡と敷金・保証金の民法上の取扱い
解除再契約型の場合、前借主は、賃貸借契約の解除により、貸主から敷金・保証金の返還を受けます。また、新たな借主は、新たな賃貸借契約に定められた敷金・保証金を貸主に預託することとなります。
地位承継型の場合、賃貸借契約に定められた内容は、そのまま新たな賃借人に承継されますが、敷金・保証金は承継されません。そのため、貸主・前借主・新たな借主の三者間で敷金・保証金の取扱いについての合意がなされていないと、貸主は敷金・保証金を前借主に返還する義務を負うことになります(民法622条の2第1項2号)。
そこで、新たな借主が前借主の敷金・保証金返還請求権を譲り受ける処理をしたい場合には、貸主・前借主・新たな借主の三者間でその旨を合意する必要があります。この場合、実務では、借家権譲渡の承諾書に合意内容を記載するといった方法がとられています。
まとめ
以上のように、居抜きにより店舗を借りる際に、新たな借主が負担する原状回復義務の範囲・内容や、敷金・保証金の承継、誰に返還すべきかといった問題について、よくトラブルが生じます。
そこで、貸主・前借主・新たな借主の三者間において、新たな借主が負担する原状回復義務の範囲・内容、敷金・保証金の返還請求権の承継について、よく確認したうえで、合意内容を書面化しておくことが、トラブル防止のために必要となります。
※この記事は、2024年2月8日に作成されました。