特許権侵害を主張された場合、どのような流れで対応することになりますか?
特許権侵害とは
特許法は、「特許権者は、業として特許発明の実施をする権利を専有する」旨を規定しています(特許法68条)。特許権者以外の者が特許発明を実施した場合、原則的には特許権侵害を構成することになりますので、製造販売等の差止め(同法100条1項)や損害賠償を請求されたり、場合によっては刑事罰(同法196条)が科されたりします。
相手方の大企業(特許権者)は、この特許権侵害を主張して、製造販売等の差止めか、実施許諾契約の締結を請求していることになります。
全体的な流れ
特許権の侵害を主張された場合、以下の流れで対応をします。(図は執筆者作成)
特許権侵害をしているか否かの検討
特許権者が特許権侵害を主張しているからといって、それを鵜呑みにするわけにはいきません。まずは、貴社製品の製造販売等が本当に相手方の特許権を侵害しているか否か、検討する必要があります。
具体的には、以下のような点を検討します。
① 貴社製品が相手方の特許発明の技術的範囲に含まれるか(構成要件該当性)
② 特許に無効事由がないか
③ その他の非侵害事由(先使用権、法定実施権、調査研究のための実施など)がないか
和解交渉
相手方の特許権侵害訴訟提起を避けるには、訴訟外での和解交渉をすることになります。
貴社が相手方の特許権を侵害している可能性が高い場合、貴社にとって少しでも有利な条件で紛争を解決するため、製造販売等の打ち切り、解決金の支払い、特許ライセンスの付与などの、貴社に不利な内容での和解に向けて交渉をせざるを得ない場合もあるでしょう。
他方で、検討の結果、貴社製品の製造販売等が特許権を侵害していなさそうな場合は、特許権者の要求が受け入れられない旨を主張することになります。そのような主張をしても、特許権者がいったん主張した特許権侵害の主張を撤回することはむしろ希です。しかし、 貴社としてはしっかりとした根拠を示し、特許権者を納得させるまでには至らなくとも、更なる責任追及や訴訟提起を事実上断念させることをゴールとした活動をしていくことが重要です。
なお、特許権の侵害・非侵害を争わず、解決金の支払いによって紛争を解決する旨を内容とする和解契約を締結することがあります。侵害・非侵害は最終的には裁判所が判断する事柄であり、当事者同士の話合いでは決着がつかない以上、各自の主張を棚上げし紛争を早期かつ穏便に解決することが、両当事者の利益になる場合があるからです。この場合も、各自の主張がどれほど確からしいかが解決金の金額に影響してきますので、貴社にとっては構成要件非該当、特許無効、および、その他の非侵害事由の根拠となる資料収集の成否が重要となってきます。
製造販売停止・設計変更
特許権者は貴社製品の製造販売等の停止を求めています。そのため、そもそも対象となった貴社製品が重要でない場合や、モデルチェンジ末期であったり在庫の売り切り間近であったりといった理由で貴社製品の在庫や売上げが少ない場合、費用をかけて特許権侵害を争うよりも、いっそ製造販売等停止をして紛争解決を図ることも選択肢に入れるべきです。
また、貴社製品を設計変更することによって、特許発明の技術的範囲に含まれないよう改良し、将来の特許権侵害を回避することができる場合があります。
なお、過去の製造販売分については特許権侵害の可能性が残っていますので、こちらについては引き続き交渉が必要です。
ライセンス交渉
特許権者にライセンス(特許発明の実施権)を付与してもらう選択肢もあります。特許発明の実施権には、貴社だけが唯一の実施権者である専用実施権および独占的通常実施権、ならびに、実施権者が貴社に限られない通常実施権があります。ライセンスを付与してもらう場合には、ライセンス一時金や、売上げに応じたランニングロイヤリティを特許権者に支払い、貴社製品の製造販売等を継続することになります。
特許権者のライセンスポリシーにもよりますが、原則的には特許ライセンスを得ていない限り特許発明を実施できませんので、他社にとってはこれが参入障壁となります。よって、ライセンスは貴社にとって必ずしも不利になることばかりではありません。
特許ライセンスを付与してもらう場合、通常は特許実施許諾契約のような契約を締結することになります。
交渉不調の場合
特許権者との交渉が不調に終わると交渉打ち切りとなります。交渉打ち切りになったからといって、特許権者が必ずしも特許権侵害訴訟を提起してくるとは限りませんが、訴訟に備えておくに超したことはありません。
例えば、特許無効を理由とする場合は無効資料、先使用権を理由とする場合は特許出願前の実施等が証明できる記録等を整備しておきます。
確認請求訴訟とADR
当事者間での話合いでは特許権侵害の有無は結論がでません。交渉が不調に終わった場合などに、特許権者からいつ訴訟を提起されるのかわからない状態が続くと、貴社や貴社の顧客などが不安定な立場におかれ続けることになります。
そこで、特許権侵害の有無をはっきりさせるため、貴社の側から、知財調停や仲裁といった裁判外紛争解決手続き(知財ADR)による解決を申し入れたり、裁判所により非侵害を判断してもらう手続き、例えば、特許権侵害に基づく差止請求権等不存在確認請求訴訟を提起したりすることも検討に値します。
対応のポイント
他社より特許権侵害を主張された場合、貴社としては、まず特許権侵害の有無を検討したうえで対応することが望ましいです。
侵害の可能性を検討した上で、特許権侵害が貴社に及ぼすインパクトが最小となるよう、フレキシブルな対応が必要となります。例えばインパクトが小さい場合は当初から少額の解決金支払いによる和解を目指す選択肢もあるでしょう。他方で、貴社の主要製品について特許権侵害が主張された場合には、訴訟によって販売等が差し止められると、貴社や貴社顧客に多大な悪影響を及ぼします。このような大きなインパクトを勘案して、貴社は、訴訟にも堪えられるよう相応の準備をして争うか、多少の出費を覚悟してライセンス契約等をするかの選択を迫られることになります。
いずれにせよ、貴社が意思決定するポイントにおける選択肢は多岐に及びますので、それぞれの場面で知財実務に精通した弁護士等のサポートは不可欠です。
※この記事は、2024年1月19日に作成されました。