特許侵害訴訟の訴状を受けたら、どう裁判に対応すべきでしょうか。
知的財産専門弁護士や弁理士と連絡をとり、第1回期日前に委任すること
警告書が届いていたようですから、その際の回答書を会社に馴染みのある弁理士か顧問弁護士を通じて回答されたのだと思います。しかし、特許訴訟は複雑で特殊な訴訟ですので、専門の弁護士に依頼することをお勧めします。心当たりがなければ顧問弁護士、知り合いの弁護士、弁理士のつてで探すことができるでしょう。
特許権侵害訴訟の管轄は東京と大阪の知的財産専門部です。第1回期日の指定が訴状と同時に裁判所の封筒に呼出状という書類が入っているはずです。第1回期日までには1週間か2週間程度しか余裕がありません。至急委任する方を探して下さい。訴状提出から第1回までの流れは以下の図を参照してください。
費用面で気を付けるポイントとしては、依頼する際には、弁護士の分と弁理士の分の費用の見積をもらうことです。また、相手の特許権に対して無効主張することを考えて、無効理由の調査の依頼、その調査費用や(特許庁に対する)無効審判請求の見積も聞いて下さい。
特許権侵害訴訟の審理と争う2つの方法
裁判所の審理の流れは以下のフローチャートのとおりです。
審理はTeamsを使ったweb審理が中心です。そして、侵害か否かの点についてはおおむね7、8ケ月程度で裁判所の結論(心証開示といいます)がでます。そして裁判所から心証開示の内容に沿った和解勧告が双方になされます。訴訟になったら必ず判決が出るということではないので、訴訟前に和解交渉の余地があれば、それも選択肢として考えておく必要があります。
訴状に対して争う方法は、技術的範囲というのですが、自社製品が特許権の範囲に含まれていないという反論とそもそも特許権が無効であるという主張の2つがあります。どちらを主張するのか、または2つを主張するのかを決めて下さい。統計では、被告は両方の主張をすることが多いです。出願発明が特許庁で登録されて特許権を取得している場合、その特許権が無効になることがあることは想像しづらいです。しかし、実際の訴訟や無効審判で無効と判断されるケースが結構あるのです。従って、できるだけ早期に相手の特許の無効資料を探しておくことを勧めます。
審理の推移と設計変更の可能性
訴状を受け取った最初の段階で、多少争う余地があるものの技術的範囲に属している可能性が高い場合、あるいは無効理由を調査で見つけたが確実に無効にはならないのではないかと考えた場合には、侵害訴訟の審理が進んでいる間に、自社製品の設計変更ができないかを検討して下さい。つまり、製品そのものの製造販売中止ではなく、特許権を回避する形で自社製品が生き残れないかということです。もし、裁判所の心証開示において侵害と言われたとしても、一定の猶予期間を得て設計変更できるとなれば、敗訴判決を回避して、(過去分は)和解金を一定額支払い、その後は設計変更後の(侵害していない)製品を引き続き製造販売することが可能になるからです。
判決と和解の割合
裁判所のHPでは、特許権侵害訴訟における判決と和解の統計が以下図のように、掲載されています。
この図によれば、原告勝訴判決の率は21%と低いのですが、和解の中身をみると、差止給付条項(今後被告は製品を製造販売してはならないという原告実質勝訴)や金銭給付条項(一定の和解金を支払えという原告の損害賠償請求を実質認める内容)等、原告側と被告側の実質勝訴率は半分ずつということになっています。審理の進み具合によっては判決だけでなく、和解も視野に入れて訴訟の幕引きを考えておくことを勧めます。また、判決は裁判所のHPで公開されますが、和解は公開されません。
まとめ
特許権侵害訴訟の訴状が来ることはめったにないことであり、大変不安に感じるでしょう。しかし、専門弁護士、弁理士と連絡を取り密にコミュニケーションをとり、特許訴訟に関する知識を習得すれば、かなり不安は解消すると思います。訴訟といってもビジネスリスクの一つにすぎません。冷静に対処すれば解決することができます。慌てないで結構です。たとえ自社製品が侵害と認定されたとしても、犯罪にはなりません。特許権侵害罪という罪がありますが、侵害判決が確定したにもかかわらず実施しているなどの場合に限られます。筆者の依頼者の中には、特許権侵害訴訟を提起され、最終的には敗訴判決となったのですが、この事件を糧として知的財産部門を強化された企業があります。
※この記事は、2024年3月19日に作成されました。