取締役による計算書類の虚偽記載が発覚しました。
しかし、計算書類の虚偽記載への対応についても、不祥事対応の基本的な流れがあてはまると考えられます。そこで、ここでは不祥事対応の基本的な流れを確認します。
対応態勢(情報管理態勢)の確認
不祥事対応において最初に行うべきは、情報の一元管理です。不祥事対応に関する社内外のあらゆる情報を一元管理する態勢が取れているかを確認すべきです。
初動対応としての事実調査
不祥事発見直後での事実確認(調査)において焦点を置くべきは、不祥事の内容とその影響です。すなわち、「何が起こったのか」と「どの範囲にどのような影響が及ぶのか」ということをしっかりと把握することが重要です。
これらはその後に続く対応の方針を判断するための重要な考慮要素です。また、この段階での事実調査は、時間その他の制約がある中でなされることも少なくありません。そのため、メリハリをつけることが重要です。
対応方針の検討
事実確認を踏まえて、対応方針を検討します。
検討すべき事項はケースにより様々ですが、次の2点は多くのケースに共通すると思われます。
事実調査の進め方
初動対応としての事実調査での焦点は不祥事の内容とその影響であったのに対して、この段階での調査での焦点は不祥事の原因です。既に生じてしまった不祥事をなかったことにすることはできません。企業に求められるのは「同じ過ちを繰り返さないこと」です。そのために、説得的な再発防止措置の検討につながる、しっかりとした原因分析が必要となります。
調査に際しては、調査委員会を設置することも考えられます。委員会の構成員には、独立性の観点からは第三者が望ましい一方で、実務の観点からは社内者の関与が求められることもあります。また、社外取締役や監査役については、不祥事の内容次第では、自らの任務懈怠が問題となることも考えられます。例えば、計算書類の虚偽記載が問題となる場合には、計算書類が取締役会の承認対象であり、監査役の監査対象であることも考慮しなければなりません。そのため、委員会の構成については、不祥事の内容に応じて慎重な検討が必要です。
適時開示その他社外への公表のタイミング
上場企業である場合、不祥事が投資家の判断に著しい影響を及ぼす場合や、これにより過去の開示内容を変更・訂正すべき場合には、適時開示が必要となります。不祥事の内容が計算書類の虚偽記載である場合は、多くがこれらに該当することになると思われます。
これらの適時開示は、基本的には速やかに行われるべきです。しかし、他方で、流動的な状況において断片的な情報を公表することは、誤解や混乱をまねくおそれもあります。そのため、虚偽記載の内容と影響を踏まえて、どのタイミングで、どのような内容の開示を行うべきかを検討する必要があります。
その他の社外への公表についても同様です。
その後の対応
事実調査の実施とその結果の公表、是正・回復措置や再発防止措置の実施等により、事態の収束を図ることになります。
上場企業である場合、計算書類の虚偽記載への対応として、過去に提出した有価証券報告書等の訂正が必要となることや、これに関連して有価証券報告書等の提出期限延長の申請を行わなければならないことも考えられます。会計監査人(監査法人)との連携は、これらの対応に際しての重要なポイントの一つです。
おわりに
不祥事対応の基本的な流れは上述のとおりです。テキストではこのように簡単にまとめることができますが、対応の実際での混乱は避けられません。また、残念ながら不祥事発生のリスクをゼロにすることはできません。
そのため、不祥事発生は避けられないものとして、危機管理態勢の検討や想定シナリオに基づく模擬演習を行う等の平時からの備えが重要です。
※この記事は、2024年2月28日に作成されました。