取締役に収賄の疑いがある場合、どう対応すべきでしょうか?
取締役の法的責任
取締役は、法令を遵守し、会社のため忠実にその職務を行うという、善管注意義務・忠実義務を負っています(民法644 条、会社法355条)。 そのため、取締役が賄賂を受け取り、その謝礼として便宜を図るなどして、会社に損害が発生した場合、善管注意義務・忠実義務に違反する行為として、任務懈怠責任(会社法423条1項)に基づく損害賠償義務を負う可能性があります。
また、取締役が「職務に関し、不正の請託を受けて、財産上の利益を収受」した場合、5年以下の懲役または500万円以下の罰金に処せられるとされています(会社法967条、取締役収賄罪)。
そのため、賄賂を受け取った取締役には、会社に与えた損害について民事責任を負うとともに、刑事責任も負う可能性があります。
取締役に対する適切な処分
取締役に賄賂収受の疑いが発覚した場合には、速やかに事実を調査し、当該取締役に対する処分を検討する必要があります。事実調査は、大きく分けて以下の段階を踏むことが一般的です。
① 証拠の収集・保全
② 証拠分析
③ 関係者ヒアリング
④ 証拠化
まず、関係者の携帯、PC、サーバー上のデータなどの証拠が消されないよう保存します。その上で、保全した証拠の解析をするとともに、関係者に対して、事実の聞き取りを行います。
関係者には目撃者や部下等が含まれ得ますが、目撃者に対するヒアリングの際は、プレッシャーを感じることなく真実を話してもらえるよう、ヒアリングの趣旨やヒアリングに応じた場合であっても不利益にならない旨等、十分な説明をする必要があります。
そして、それらを不正調査報告書の形でまとめます。報告書は、取締役会での議論の材料となるだけでなく、株主や第三者も見る可能性があることから、調査結果を中立的立場で検討する必要があります。
取締役には就業規則の適用がなく、懲戒処分の対象とはなりません。しかし、株主総会の決議でいつでも解任することができる(会社法339条1項)ため、必要があれば、解任に向けて速やかに動く必要があります。
社外への対応
取締役の収賄は、場合によっては会社の経営や世間を揺るがす不祥事となる可能性があります。そのため、監督官庁、株主・取引先への対応が必要となることもあります。また、レピュテーションリスクに対応するため、記者会見の設定を検討する必要となります。
記者会見においては、ご存じの通り役員等の不用意な一言がSNS上で炎上する事案も多く発生しています。そのため、公表の時期及び方法を調整の上、早期に問題を沈静化できるよう、万全の準備が必要となります。事前に想定問答集を作成し、繰り返しリハーサルを行うなどして、事情を正確に伝える必要があります。
再発防止体制の構築
不祥事が発生した場合には、原因を分析し、同種行為の再発を防止するため、適切な内部統制システムを整備する必要があります。
例えば、役員向けコンプライアンス研修の実施、内部通報制度の設置・強化を行うことが一般的な対応となります。また近年においては、問題の早期発見を促すため、自主的に自身の不正行為等を申告した場合、一定の要件の下に責任が減免される制度(社内リニエンシー制度)などの導入を行う事例も見受けられます。
※この記事は、2024年2月6日に作成されました。