解任した取締役からの損害賠償請求は応じなければならないでしょうか?
損害賠償請求の法的根拠とは
自らに生じた損害の賠償を相手方に対し求める、つまり損害賠償請求をする場合の法的根拠には、概ね次の3つのものがあります。
①交通事故のように相手方の違法・不当な加害行為によって損害が生じた場合で、これを「不法行為 」といいます(民法709条)。
②相手方が契約上の義務を履行せず、または不十分な履行しかしなかったために損害が生じた場合で、これを「債務不履行」といいます(民法415条1項)。
③損害賠償ができる旨を定めた個別の規定がある場合で、これを「法定責任」といいます(会社法339条2項等)。
取締役と会社との関係について
一方、取締役と会社(ここでは一般的な株式会社を想定しています。)との間の関係は、委任に関する規定に従うとされています(会社法330条)。したがいまして、取締役は、その職務の遂行について会社に対し善管注意義務(民法644条)や忠実義務(会社法355条)などを負い、会社は取締役に対し報酬の支払いなどの契約上の義務(債務)を負っているのが通常です(会社法361条1項参照)。また、会社は株主総会の決議によっていつでも取締役を解任することができますが(会社法339条1項)、解任された取締役は、その解任について正当な理由がある場合を除き、株式会社に対し、解任によって生じた損害の賠償を請求することができるとされています(同法同条2項)。
損害賠償請求に応じるべきかを検討する際のポイント
解任した取締役からの損害賠償請求が、解任が違法・不当でこれにより損害を被ったという主張であった場合、この請求の法的根拠は①不法行為あるいは③法定責任と思われます。したがいまして、どのような理由で解任が違法・不当と主張しているのかを確認したうえで、解任の理由や手続きなどに違法・不当な点がなかったかを検討し、もしあれば応じるべきということになります。
一方、取締役在任中の報酬に未払いがあったという主張であった場合、この請求の法的根拠は②債務不履行になるでしょう。したがいまして、どの部分の債務を履行していないという主張なのかを確認したうえで、契約書等で定められた会社の取締役に対する義務の内容と実際の履行状況を調査し、実際に未払いがあれば応じるべきということになります。もちろん、このほかの理由による損害賠償請求もあり得るので、その場合はその主張内容を個別具体的に検討していくことになります。
まとめ
ある日突然、解任した取締役から損害賠償を求める書面が届いたら、多くの方は大変驚かれるのではないでしょうか。しかし、実はこのようなケースはそれほど珍しくありません。もし損害賠償請求が認められる場合、遅延損害金も発生する可能性がありますので、損害を最小限に留めるためにも早い対応が望まれます。決して放置はせず、まずはその主張内容を確認し、判断に迷う場合には速やかに弁護士に相談されるのがよいでしょう。
※この記事は、2023年11月17日に作成されました。