倒産する取引先から、商品を取り返すことはできますか?
しかし、ある取引先が近々破産するとのことです。未収金があるのですが、
代金を回収できないとしても商品を返してもらいたいです。どうすればよいでしょうか?
売買契約で所有権留保を定めている場合は、売主は、目的物の返還を受けた後、目的物を改めて第三者に売却することにより、商品の売買代金を回収することができます。
売買契約で所有権留保を定めていない場合も、売主には動産売買先取特権が認められます。しかし、動産売買先取特権では商品の返還を求めることができず、売主は破産管財人の管理下にある商品の競売申立てをして、売買代金を回収することになります。
目次
商品の売主に破産法上認められる権利(別除権)
別除権とは?
商品の売主が買主(破産会社)から商品を取り戻すことができるかは、商品の売主に破産法上どのような権利が認められるかによります。
まず、商品の売主には、法律上、動産売買先取特権が認められます。また、商品の売買契約の内容によっては、所有権留保という権利も認められます。
動産売買先取特権と所有権留保はいずれも、破産法上別除権という権利に分類されます。別除権とは、破産手続開始の時において、破産財団に属する財産につき担保権を有する者が、これらの権利の目的である財産について、破産手続きによらないで行使することができる権利をいいます(破産法2条9号)。
要するに、別除権としては、抵当権などの担保権をイメージして頂くとわかりやすいでしょう。
取戻権とは?
破産法上、別除権とは別に、取戻権という権利が存在します。
取戻権とは、「破産者に属しない財産を破産財団から取り戻す権利」のことをいいます(破産法62条)。
例えば、破産者が第三者の所有物を占有していた場合には、所有者たる第三者はその所有物の返還を破産管財人に求めることができます。
商品の売主に破産法上認められる権利
商品の売主には動産売買先取特権が認められ、売買契約の内容によっては所有権留保も認められます。
動産売買先取特権と所有権留保はいずれも担保権であって、別除権となります。
所有権留保は、その名称から売主に所有権が帰属しているものとして取戻権になるようにも思われます。
取戻権であれば、「取り戻す権利」との文言のとおり、商品の売主は、買主(破産会社)に引き渡した商品を取り戻すことができます。
しかし、実務上は、所有権留保は、担保としての実質を重視して、別除権として取り扱われています。
破産時における所有権留保の取り扱い
所有権留保とは?
所有権留保とは、売買契約成立時に目的物を買主に引き渡しますが、代金が全額支払われていない場合(分割払いの場合など)に、代金支払の担保のため、完済まで売主が目的物の所有権を自己に留保することをいいます。
売主は、買主が代金の支払を遅滞した場合には、留保している所有権に基づき目的物を引き揚げて、第三者に売却したうえで、その換価代金から未収代金を回収することになります。
所有権留保は民法には規定がなく、商品の売主に法律上当然に認められる権利ではありません。所有権留保は売買契約などで当事者が合意することによって設定することができる約定担保物権となります。
所有権留保の実行方法
売主は、目的物の返還を受けた後、目的物を評価または換価したうえで清算し、換価処分によって商品の売買代金を全額回収し余りが生じれば、それを買主(の破産管財人)に返還し、換価処分によっても売買代金を全額回収できなった場合は、その差額を買主に請求する(破産債権を行使する)ことになります。
破産時における動産売買先取特権の取り扱い
動産売買先取特権とは?
動産売買先取特権とは、動産を売却した者が、売買代金及びその利息について、売買目的物である動産から、他の債権者に優先して弁済を受けることができる権利をいいます(民法303条、311条5号)。
動産売買先取特権は、商品の売主に法律上認められている法定担保物権になります。
よって、売買契約に動産売買先取特権が定められていなくても、商品の売主には、動産売買先取特権が当然に認められることになります。
動産売買先取特権の実行方法
売主は、買主(の破産管財人)が管理する売買目的物である動産の競売申立てをすることができ、その競売代金から他の債権者に優先して弁済を受けることができます。
しかし、商品の買主が破産した場合に、売主が動産競売の申立てをすることは実際のところ多くはありません。動産競売を申し立てるためには、対象となる商品や保管場所を特定する必要がありますが、この特定が難しいからです。
また、売主が動産売買先取特権を理由に、買主(の破産管財人)に商品の返還を求めることはできません。動産売買先取特権には目的物を直接支配する権利はなく、引渡を請求する権利はないからです。
まとめ
以上のとおり、商品の売却先が破産した場合、売買代金の未収があるとしても、当然には商品の返還を求めることはできません。
しかし、売買契約で所有権留保を定めている場合は、売主は、目的物の返還を受けたうえで、目的物を改めて第三者に売却することにより、商品の売買代金を回収することができます。
また、売買契約で所有権留保を定めていない場合も、法律上、売主には動産売買先取特権が認められます。売主は、動産売買先取特権に基づいて、破産管財人の管理下にある商品の競売の申立てをして、売買代金の回収を図ることができます。
商品の売却先が破産しそうな場合は、速やかに弁護士に相談して、商品や売買代金の回収について対応を検討することが望ましいでしょう。
※この記事は、2024年1月26日に作成されました。