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トランスジェンダー従業員に女性用トイレの使用を認めてよいですか?

身体的性別および戸籍上の性別は男性であるが性自認は女性である従業員(トランスジェンダー女性従業員)から、オフィスの女性用トイレを使用したいとの申し出がありました。どのように対応したら良いでしょうか?
トランスジェンダー女性従業員の要望と他の従業員の意見を十分確認した上で、職場環境や安全管理の観点に配慮して、会社にとっての最適解を探っていく必要があります。
回答者
山本 大輔 弁護士
弁護士法人大江橋法律事務所

最高裁判決の概要

2023年はLGBTQ+に関する様々なニュースがありましたが、7月11日には、LGBTQ+の職場環境に関する初めての最高裁判決、いわゆる経産省トランスジェンダー事件の最高裁判決(以下「本件最高裁判決」といいます。)が出て、冒頭の質問のケースについて最高裁の判断を出しました。本件最高裁判決は国の機関である経産省と国家公務員の間の事案ですが、本件最高裁判決のポイントは、民間企業とその従業員の間にも適用される可能性が高いです。本件最高裁判決の判断を知ることで、同種のケースに適切に対応できるため、まずは本件最高裁判決の概要を簡略化して以下に記載します。

本件最高裁判決の事案では、トランスジェンダー女性(生物学的性別が男性で、性自認が女性)の職員が経産省に男性として入省し、その後上司に対して女性トイレを自由に使用すること等を要求しました。しかし、経産省・人事院はその要求を認めず、その職員が勤務するフロアから2階以上離れた女性トイレの使用等だけを認めたところ、本件最高裁判決はこの経産省・人事院の判断を違法としました。

その理由を簡単に言うと、経産省は全ての職員に対して職場環境を適切に維持する義務を負っているにもかかわらず、トランスジェンダー女性職員に比べて他の職員を経産省が重視しすぎたと、最高裁が判断したからです。具体的には、トランスジェンダー女性職員は「性同一性障害」の診断や女性ホルモンの投与を受ける等、自らの性自認に従って生きる利益があったにもかかわらず、勤務するフロアから2階以上離れた女性トイレしか使用できない状態が約5年間課されました。他方で、他の職員はその職員が女性トイレを使用することに明確には反対しておらず、その職員が2階以上離れた女性トイレを使用していた間に何のトラブルも起こりませんでした

民間企業も法律や判例上、全ての従業員に対して職場環境を適切に維持する義務を負っているため、本件最高裁判決の指摘に対応する必要があります。

会社が何をどこまで行えば違法ではないか

本件最高裁判決を踏まえて、トランスジェンダー女性従業員が性自認に従ったトイレ使用を入社後に要望してきた際に、会社は誰に・何を確認すれば、違法にならないでしょうか。

まず会社は、トランスジェンダー女性従業員の性自認を確認し、女性トイレを使用する必要性を確認します。本件最高裁判決によれば、性同一性障害(性別違和)の診断を受けていること、女性ホルモンの投与を受けていること等が根拠になりますが、それがなければ必要性がないと判断していいわけではなく、個別事情を確認する必要があります。

次に他の従業員の意向も確認する必要があります。なぜ「トランスジェンダー女性従業員が女性トイレを使用することについて、他の従業員の意向を確認するのか」疑問に思われるかもしれません。しかし、これまで男性として働いてきた従業員が、何も説明なくある日から急に女性トイレを使用することになると、説明が欲しい従業員が現状多いのではないでしょうか。会社は、トランスジェンダー従業員の承諾を得た上で、他の従業員に対して説明する機会を設け、影響を受ける他の従業員の理解を求める必要があります。他の従業員が反対した場合は、その理由を確認し、どこまでならば合意できるかを探るべきです。

本件最高裁判決の適用範囲

以上、本件最高裁判決に照らして質問のケースを検討しましたが、本件最高裁判決は自社ビルのトイレの使用のケースで、各階男女用のトイレがそれぞれ3つあるようなビルでした。これが、複数テナントが入るビルであったり、各階男女用トイレが1つしかなかったり、従業員以外も自由に出入りできるトイレであったりする場合には、本件最高裁判決とは異なる判断がされる可能性もあります。

まとめ

質問のケースに対しては一律の解決策があるわけではありません。会社は従業員の意向を十分に確認し、職場環境を整備する必要があります。

この記事は、2023年11月28日に作成されました。

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