当社は見積書と請求書で売掛金を管理していますが問題はないでしょうか?
日本企業の契約書実務の実態
日本の多くの企業(会社や個人事業主)では、仕事を受注する場合、見積書と請求書で売掛金を管理しており、ときには何百万円、何千万円もの仕事でも、契約書を交わさないことがほとんどです。
2023年10月からインボイス制度が始まりましたが、これも消費税の仕入控除をするためには請求書を必要とする制度です。そのため、企業は請求書をますます重視することとなることが予想されます。
見積書や請求書では不十分であることの理由
ここで、「仕事を受注する」というのは、法律上は、仕事を依頼する顧客と仕事を受ける企業側で、契約が成立するということとなります。即ち、両者が仕事の内容や商品、代金、納品日などについて合意することが必要となります。
しかし、見積書、請求書というのは、仕事を受ける企業側の主張が書かれたもので、仕事を依頼する顧客がそれについて承諾しているかどうかはわかりません。
したがって、後から、契約内容の要素である仕事の内容、商品の種類、形や大きさ、個数、代金、納期などについて、仕事を依頼する顧客から「承諾していないのに納品された」と主張されると、仕事を受注した企業側では、見積書と請求書しかない場合、顧客が承諾していたことを証明する手段がないこととなってしまいます。
契約書や発注書の必要性と現実的な問題点
これを避けるためには、顧客が見積内容について承諾していたことを後で証明できるように、顧客との間で契約書を交わすか発注書をもらう方が良いということとなります。
日本の企業がどうして、見積書や請求書で売掛金を管理しているかというと、以下の理由が考えられます。
- 仕事を取ることが優先で、後でトラブルとなる可能性のことをあまり考えていない。
- 契約書等は面倒で、顧客に手間を取らせたくない。
- 契約書や発注書を作成すると印紙代がかかる。
これらの理由は、もっともな面もあります。しかし、せっかく仕事をとっても、後でトラブルとなって売掛金を支払ってもらえなかったり、裁判となり弁護士費用が掛かったりしては、何のために仕事を取ったのか分からなくなってしまう場合もあります。
解決策
そこで、本当は全て契約書を交わした方がよいのですが、契約書を交わすということはハードルが高いので、契約書を交わさなくても、見積書と同じ内容の発注書をもらうような書式を作成することが考えられます。
また、書面でなく、メールで発注してもらったり、電子契約を利用したりすると印紙代がかからなくなる可能性もあります。
請求書、発注書で売掛金を管理している場合は、後でトラブルになった場合に不利となってしまうリスクを認識した上で、金額の多寡によって、契約書を交わすか、発注書をもらうかなどの取り扱いを変えるということも考えられます。
これらの方法をそれぞれの企業の実情に合わせて検討して、売掛金について効率的に管理してトラブルがないようにするのが良いと思います。
※この記事は、2023年11月9日に作成されました。