売掛金債権を担保に出す場合、気を付けた方が良いことはありますか?
目次
金融機関が将来売掛債権の担保を求める理由
近年、金融機関が、融資先企業が将来取得する取引先への売掛債権を、担保として提供するように求めるケースが増えています。かつて金融機関は、融資判断にあたって不動産担保が取得できるかどうかを重視していましたが、近年、経済産業省および金融庁が、これまで担保としてあまり活用されてこなかった融資先企業が保有する「在庫」や「売掛金」などを担保とする融資の推進を打ち出したことが、理由の一つとなっています。
売掛債権担保の内容
将来取得する売掛債権の担保は、融資先企業において、将来の一定期間にわたって発生する売掛債権に対して、譲渡担保という形式で担保を設定するケースが多くなっています。譲渡担保とは、担保の目的で債権を譲渡することになりますが、融資の期限の利益を喪失する等の事情がない限りは、融資先企業に対して、当該売掛債権を回収する権限および回収した金銭を事業のために使用する権限を与えられるのが通常です。その場合、融資先企業は、融資の期限の利益喪失等がなければ、これまで通りに事業を営むことが可能です。
売掛債権担保の対抗要件
また、売掛債権に譲渡担保を設定するにあたっては、対抗要件として以下のいずれかを行うのが一般的です。
①債権譲渡の登記を行う方法(動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律に基づく方法)
②取引先に対して確定日付のある証書によって取引先に債権が譲渡されたことを通知するか、または確定日付のある証書によって取引先から債権が譲渡されたことを承諾してもらうという方法(民法467条に基づく方法)
①債権譲渡の登記による場合
債権譲渡の登記による場合は、融資による期限の利益喪失等がない限り、取引先に対して債権譲渡がされたことを通知しない方法によるのが一般的です。そのため、取引先に対して譲渡担保を設定した事実が通知されないというメリットがあります。
他方で、債権譲渡の登記がされたこと自体は、登記事項概要証明書および概要記録事項証明書を請求した場合には記載され、さらに、これらの証明書は何人でも交付を請求できます。その場合には、債権譲渡がされている事実が取引先以外の人にも分かってしまうというデメリットがあります。
②確定日付ある証書によって行う場合
他方で、確定日付ある証書によって行う方法は、融資先企業と売掛債権の債務者である取引先との相対で行われます。そのため債権譲渡の登記のように、当該取引先以外の人に対して、債権譲渡が行われたことが分かるということは通常はありません。
しかし、当該取引先に対しては、債権譲渡担保が行われたことが分かってしまうというデメリットがあります。
売掛債権担保の設定にあたっての留意点
金融機関から将来取得する売掛債権に譲渡担保を設定するように求められた場合、その設定を断ったときには、融資審査が通らない(融資を受けられない)可能性も十分にあります。そのため金融機関に対し、売掛債権に譲渡担保を設定することが、融資審査が通るために必須かどうかを十分に確認した上で、さらに、上記のメリットやデメリットを勘案した上で設定に応じるか否かを検討していただく必要があります。
※この記事は、2023年12月5日に作成されました。