アメリカの販売代理店との契約についてチェックポイントを教えてください。
その上で、独占的販売店か否か、代金の支払時期・条件、契約の終了に関する条項等を確認してください。特に、アメリカ企業との取引で代金が未払いとなった場合、強制的に回収することは負担が大きいので、代金は前払いとするなど、可能な限り契約で手当てしておくべきです。また米国法のフランチャイズ規制についても注意が必要です。
目次
チェックポイント①「販売店」か?「代理店」か?
「販売代理店」は、大きく「販売店(distributor)」と「代理店(sales agent)」の2つに分類できます。両者の取引構造は大きく異なります(下図参照)ので、まずは契約書の内容がどちらを想定しているか確認しましょう(見分け方は文末脚注1参照)¹ 。
「販売店(distributor)」は、貴社のようなサプライヤーから販売対象製品を自ら買受け、消費者などのエンドユーザーに転売します。
これに対し「代理店(sales agent)」は、サプライヤーからエンドユーザーへの販売を促進する活動を行うにとどまり、製品を自ら買い受けません。その結果、在庫リスクやエンドユーザーからの代金回収リスクは、代理店でなくサプライヤー(貴社)が負うことになります。
アメリカを含め海外での販売を想定する場合、自らエンドユーザーへの代金回収リスクを負うことは避けたい場合が多いと思いますので、以下では、貴社が「販売店」を想定しているものとして、話を進めます。
チェックポイント②独占的販売店か?非独占的販売店か?
次に、販売店に与える貴社製品の販売権が独占的(exclusive)か非独占的(non-exclusive)か、を確認する必要があります。
独占的販売権とは、一定の販売地域(territory)内では、その販売店しかサプライヤーの製品を販売できない、と規定するような場合です。この場合、同一地域内で他の販売店にはサプライヤー(貴社)の製品を販売させることができないのみならず、契約内容によっては貴社自身も当該地域では自社製品を販売できません。
貴社製品の販路がまだアメリカにない段階では、交渉上の力関係から、販売店に独占的販売権を与えざるを得ない場合も多いと思います。その場合には、最低購入数量(金額)を設定する、競合品の取り扱いを制限する²などの条項を入れておいた方がよいでしょう。
チェックポイント③代金の支払時期・方法
アメリカを含め、海外の販売店に対し貴社製品を販売する場合、代金の支払時期・方法については、国内取引以上に慎重に検討する必要があります。
なぜなら、仮に代金が不払いとなり、何度催促しても払ってくれない、という事態になった場合、この販売店が日本に資産を有している場合を除き、アメリカの裁判所を通じた強制執行が必要となるからです。この結論は、後述する紛争解決条項等の内容にかかわらず、アメリカ国内の資産から代金回収しようとする限り避けられません。
ですので、可能であれば、代金は全額前払いとする、全額が無理なら一部(例えば半額)前払いとする、といった方向で交渉しておくべきです³。
チェックポイント④契約の有効期間・更新の有無
販売店契約の紛争でよくあるのが、サプライヤーが販売店との契約を終了させようとする際に、販売店が販売継続を希望し抵抗する、というケースです。特に貴社が将来的には自ら現地に販売会社を設立しようと考えている場合には要注意です。
そのような場合、あまり長期にわたる契約にしない方が得策かも知れません。契約期間は2~3年にとどめ、自動更新条項⁴も入れない、といったことが考えられます。
また、このあと述べる各州法による契約終了の制限にも注意が必要です。
チェックポイント⑤アメリカ連邦法・州法のフランチャイズ規制
アメリカの販売店を通じた販売が「フランチャイズ(franchise)」に該当する場合、連邦法・州法それぞれのフランチャイズ規制(フランチャイジー保護法制)の適用を受ける場合があります。
「フランチャイズ」の定義は各法律によって異なりますが、単に製品を卸すだけでなく、サプライヤーが自らのマーケティング計画や商標を通じて販売店の販売活動に強い影響力を及ぼすことを想定している場合、フランチャイズに該当する可能性が高まります。独占的販売店の場合、特に注意が必要でしょう。
規制の内容としては、まず連邦法では、契約締結前に、フランチャイザー(該当する場合は貴社がこれに当たります)からフランチャイジー(販売店)候補への一定の情報開示(契約内容等)が義務付けられています⁵。
次に州法レベルでは、連邦法のような情報開示義務(州当局への事前登録を通じて情報開示させる等)のほか⁶、フランチャイザー側からの契約終了を制限する規定(例えば最低60日前までの解約告知を義務付け、さらに正当事由(good cause)がない限り解約できない等)を設ける州が少なからずあります⁷。
チェックポイント⑥紛争解決条項・準拠法
販売店がアメリカ企業ということですので、契約に関して紛争が生じた場合、どの国の裁判所その他の紛争解決機関に解決を委ねるのか(紛争解決条項)、また契約を解釈する際にどの国の法律に準拠するか(契約準拠法)、といったことも契約に定める場合が多いでしょう。
日本の裁判所で、日本法に準拠するのが安心、と思うかも知れませんが、そうとも限りません。というのは、特に上でご説明した代金回収や契約終了に関する紛争で、日本の裁判所の判決をアメリカで執行しよう、という場合、外国判決の承認(recognition of foreign judgment)という手続を経ないと執行ができません。アメリカの各州であれば執行が認められることも少なくないとは思いますが、確実ではありません。
そこで、紛争解決を仲裁(arbitration)⁸に委ねるという仲裁合意条項を入れておくことが考えられます。アメリカはニューヨーク条約 ⁹にもとづき日本を含む他の締約国における¹⁰仲裁判断を執行する義務を負うため、日本の裁判所の判決よりも仲裁判断の執行の方が比較的容易です。ただし、仲裁のコストを考えると、取引規模によっては実際に仲裁を使うと費用倒れになる可能性がある点には留意が必要です。
・「販売店」なのか「代理店」なのか、ひいては在庫リスクや代金回収リスクを相手方が負う形になっているか確認する。
・独占的販売店とする場合、最低購入数量(金額)や、販売店による競合品の取り扱い制限の条項を入れるよう交渉する。
・販売店からの代金が未払いとなった場合、強制的に回収するためにはアメリカの裁判所を介する必要があり、負担が大きいので、代金は前払いとする等、契約で手当てしておくべき。
・契約終了に関する紛争が多いので、契約期間の設定や各州法のフランチャイズ規制に留意すること。
- ¹ 契約書の内容が「販売店」を前提としたものになっているか、簡単な確認の方法としては、契約書の中に、貴社と相手方との間における製品の売買に関する規定、例えば注文(order)の手続が規定されているか、探してみましょう。こうした規定があれば「販売店」を前提としている可能性が高いです。逆に、コミッション(commission)に関する規定がある場合は、代理店を想定した契約内容になっている可能性が高まります。
- ² ただし、このような制限が、米国競争法(日本における独占禁止法)に違反しないか、という点の検討が必要になる場合があります。
- ³ 販売店が前払いに応じない場合は、1回の注文額に制限を設けることにより一種の与信枠を設けることも考えられます。その他、信用状(letter of credit)取引を用いることも考えられますが、単価が大きい製品でないと、コストが大きすぎるかも知れません。
- ⁴ 契約満了の一定期間前までに当事者のいずれかが更新拒絶の通知をしない限り、現在の契約と同一の条件で契約が更新されることを定める条項。
⁵ 16 C.F.R. Section 436(FTC Franchise Rule)⁶ ニューヨーク州における情報開示・登録義務についてはChapter 20 (General Business) Article 33 Section 683参照。
カリフォルニア州についてはCalifornia Corporations CodeのSection 31000以下(Franchise Investment Law)参照。⁷ カリフォルニア州のフランチャイズ契約終了規制については、California Business and Professions CodeのSection 20000以下(California Franchise Relations Act)参照。特にSection 20020の定める契約終了ルールが重要です。
- ⁸ 仲裁とは、紛争当事者自ら選んだ仲裁人の仲裁判断に紛争解決を委ねる制度で、国の裁判所ではなく私的機関による裁判と考えるとよいでしょう。
- ⁹ 正式名称はThe Convention on the Recognition and Enforcement of Foreign Arbitral Awards。締約国は一定の要件のもと、他の締約国における仲裁判断を承認し執行する義務を負います。日本は1961年6月、アメリカは1970年9月に、それぞれ締約国となりました。¹⁰ ニューヨーク条約は、締約国に自国での執行を義務付ける仲裁判断を、他の締約国における仲裁判断に限定していません(同条約3条)。しかし、同条約1条3項は、執行義務の対象となる仲裁判断の範囲を締約国のものに限る旨を留保することを各締約国に認めており、日本及びアメリカは、いずれもこの留保を付けています。各締約国における留保の状況については、こちらを参照してください。
参照/参考文献
※この記事は、2024年2月9日に作成されました。