ベンチャーキャピタルから出資を受けるうえで気を付けるべき条件は?
投資条件についての注意点
ベンチャーキャピタルは、非上場会社に投資して会社を上場させたり、保有する株式を他のファンドに転売したりするなどして、投下資本を回収することを目的にする投資会社です。ベンチャーキャピタルの中には、投資対象会社がまだアイデアのみの段階から事業資金を提供し、事業の立ち上げをサポートするものや、上場前のベンチャー企業に投資し、株式市場に上場した際に値上がり益を得ることを目的とするものなどさまざまなものがあります。その多くは、投資対象会社の経営に一定程度口出しをします。これをベンチャーキャピタルのハンズオンといいます。
ベンチャーキャピタル等から出資を受ける場合は、株主構成が変化します。新株を多数発行すると、既存株主の株式保有割合が薄まっていくことになります。これをダイリューション(希薄化)といいます。会社の経営権を保持するためには、創業株主の株式保有割合は少なくとも過半数、当初はできれば3分の2以上確保しておきたいところです。株主総会において、過半数あれば、取締役の選解任や配当など主だった株主総会の決議を、3分の2あれば新株の有利発行や会社の組織再編などの特別決議を、それぞれ可決することができるからです。
ベンチャーキャピタルの出資比率や1株当たりの発行価格など、今後の資本政策や株主構成を検討する際には、少数株主権にも注意が必要です。主な少数株主権には、会計帳簿閲覧・謄写請求権や取締役解任請求権、株主総会招集請求権・議題提案権など多くの種類があり、それぞれに議決権や株式数などの条件が決まっています。
また、多くの資金を調達したいがために株価を高くしすぎると、その後の資金調達の際もそれが基準になってしまい、新たな出資が集まりにくくなる恐れがあります。なぜなら、既存株主は自己が引受けた価格以下での新規発行には同意したがらないため、会社が成長していなくても、その価格以上で引受ける投資家を探さざるを得なくなるからです。そのため、普通株式より高い株価を設定した優先株式が使われることが多くなっています。
ベンチャーキャピタルが投資する際は、投資対象会社に対して企業内容の精査(デューディリジェンス)を行います。デューディリジェンスにおいては、企業の財務状態や事業の将来性、コーポレートガバナンスの状況、重要な契約、コンプライアンス体制、人事、紛争等を総合的・多面的に調査されます。
投資契約上の注意点
投資することが決まったら、デューディリジェンスの結果も考慮に入れて、株価の評価(バリュエーション)を行い、各種の投資条件について規定した投資契約を締結します。同時に、多くのケースでは、創業株主や他のベンチャーキャピタルとの間で、経営方針や役員構成、資金調達、株式の売却等について定めた株主間契約も締結します。
投資契約や株主間契約には、投資対象会社において、過去から現在まで一定の問題が生じていないことを表明保証させたり、将来に向けて一定の事項を行うことや行わないことを誓約させたりする条項が詳細に規定されます。違法行為や反社会的勢力との付き合いがあると、この表明保証に違反して投資を受けられなかったり、投資を引き揚げられたり、補償請求されたりすることになってしまいます。
将来の経営に関しても、取締役の指名権や事前承諾事項、禁止事項などが多数定められていて、経営の自由度を失うことがあるので注意が必要です。一定の財務状態を約束する財務制限条項や、より有利な契約を他のベンチャーキャピタルと締結する場合にその投資契約も有利な内容に変更する旨の最恵待遇条項が規定されることもあります。また、表明保証違反や一定期間内の上場未達成などの場合に、創業株主がベンチャーキャピタルの保有する株式を一定の金額で買い戻す義務を定める株式買取条項が規定されていることもあります。
ベンチャーキャピタルは、投資先企業を上場させるか、その企業の株式を第三者に売却して、多額のキャピタルゲインを得ようとします。第三者に売却する場合(エグジット)は、みなし清算条項によってベンチャーキャピタルが多くの利益を得ることがあります。エグジットの際、この条項によって会社が清算したものとみなして、売却代金から他の株主より優先して分配を受けることが出来てしまうのです。また、上場直後にベンチャーキャピタルが株式を大量に売却すると、株価形成の障害になる恐れがあります。そこで、上場から一定期間内は、創業株主が市場で持ち株を売却しない旨の合意をするのが一般的です(ロックアップ)。
まとめ
このように、ベンチャーキャピタルとの投資契約や株主間契約は、ベンチャー企業の経営者に様々な制約を課す内容になっており、将来にわたって厳しい足かせになることがよくあります。バリュエーションについても、今後の資金調達のプランに沿って慎重に交渉すべきです。資金調達を急ぐあまり、ベンチャーキャピタルから提案されたバリュエーションや投資契約書のひな型をそのまま受け入れてしまっているケースもありますが、将来のことを考えて、必ず弁護士や公認会計士にチェックを依頼するようにしましょう。
※この記事は、2023年10月19日に作成されました。