ベンチャー企業が弁護士に依頼すべき事項の判断基準がわかりません。
企業における法務担当者確保の現状
公益財団法人商事法務研究会と経営法友会が2020年に実施した第12次法務部門実態調査によると、調査に対して回答を行った従業員数500名以下の企業においては、法務専門の部門を置いていると回答した企業は48.4%に止まりました。つまり、51.6%の企業が法務専門の部署を置いていないという実情があります。
さらに法務専門の部門を置いていると回答した企業の内訳として、11.3%が法務専任担当者を置いている、27.3%が法務と他の業務を兼任している者がいる、12.9%が兼任も含めて法務はいないとそれぞれ回答しており、従業員数500名以下の企業においては、法務担当者を十分に確保できていない現状が伺えます。
ご質問のあった従業員100名以下の企業規模からすると、一般的には、法務専門の部門を設置することや、法務専任担当者を置くことは難しいのではないかと思われます。そのため、法務担当として他の業務との兼任担当者を置く程度の体制とされている企業が多いのではないかと推察されます。
弁護士へ依頼すべき事案の判断基準
個別の企業毎の状況は異なるため、全ての企業に共通する弁護士へ依頼をすべき事案の判断基準を定立することはできませんが、弁護士へ依頼をすべき事案といえるかどうかを検討するうえでは、次のような事項を考慮すべきでしょう。
事案の規模
規模の大きい案件であれば、株主や役員会等に対する報告資料に外部の弁護士への相談結果等を添付するために弁護士への相談を行っているという企業も多いように思います。しかしながら、形式的な面だけではなく、実質的な面から見ても、規模の大きな案件であればあるほど、積極的に弁護士への相談・依頼を行い、法務に関する不明点は除去しておくべきでしょう。
例えば、新規事業の立ち上げや新製品の開発を行ったにもかかわらず、後日問題が発覚した場合、新規事業や新製品の開発コストが無駄になるだけではなく、リコール等の更なるコストが発生するといった点は想像し易いかと思います。その他にも、法規制等に対して十分な検討を行った上で開発等を行うことにより、本来必要のない過度な規制対策を省略することによる開発コストの削減や製品自体の競争力の上昇といった良い効果も生まれることがあることも意識されるとよいでしょう。
企業毎の法務の体制
前記のように、企業毎にその有する法務部門の機能は異なります。本件事例のような企業では、十分な法務部門の機能を有していないことが多いかと思いますので、経営者の方は、外部の弁護士への相談・依頼により、自社に不足する法務部門の機能を拡充するといった観点からも、積極的に弁護士への相談・依頼を検討されるべきではないかと思います。
また、法務担当者は、契約書のレビュー、各部門からの相談、ガバナンス体制の検討等多くの業務を抱えていることが多く、大量の案件を処理するためには、個別の案件に対して割ける労力には限界があります。加えて、法務担当者は、多方面にわたる業務を取り扱わなければならない結果として、専門的に一分野について特化することも難しい状況があるように思います。法務担当者には、企業内部に所属していることより把握できるポイントもあり、この点は決して軽視してはならないものではあるものの、法務担当者による作業は、外部の弁護士として行う作業とは質的に異なるものとならざるを得ない場面がある点も十分に理解をしておく必要があります。
定型的業務においての判断基準
前記のように、弁護士に依頼すべき事案の判断基準として普遍的な基準を定立することはできませんが、業務効率化のため、特定の業務を類型化し、弁護士に依頼を行う際の基準を定めておくことも考えられます。
例えば、債権回収が定期的に発生するような企業であれば、内容証明郵便の発送までは法務部門がこれを行い、それでも回収ができない場合は、予め定める債権額を超える場合は、弁護士に依頼し支払督促の申立てや訴訟提起へ進めるといった基準を定めておくことが考えられます。
弁護士との関わり方
一定の業務が発生する企業においては、特定の弁護士との間で顧問契約を締結することにより、弁護士へ相談・依頼をしやすい環境を整備しておくことも有用かと思います。
顧問契約の内容にもよりますが、一定の相談であれば追加の費用負担なく行えることもありますので、相談の都度費用を検討することが煩わしいということであれば、そのような顧問契約を利用してみることもよいでしょう。
また、弁護士の活用方法の一つとして、東京弁護士会では、弁護士の活用を考えている企業等向けに、弁護士が業務受託により非常勤で会社に赴く等して法的サービスを行い、企業等に弁護士の利用を一定期間経験してもらい、弁護士の有用性や意義を理解してもらう制度(非常勤業務受託弁護士制度)を設けています。弁護士が週2~3回程度会社に訪問するパートタイム型といった、顧問契約やスポットでの契約とは異なる方式も想定されていますので、検討されてみてはいかがでしょうか。
※この記事は、2024年1月29日に作成されました。