勤務態度が悪い取締役の報酬を減らすことはできますか?
取締役報酬決定の効果(報酬の一方的変更の可否)
実務上、取締役報酬は、株主総会決議において取締役報酬の総額を決議し、各取締役の報酬金額については取締役会決議で決定する(また、取締役会決議において、さらに代表取締役に報酬金額の決定を再一任する)ことが多くあります。
そのようにして具体的に決定された報酬金額は、会社と取締役との間の委任契約の内容となるため、たとえ取締役の勤務態度に問題があったとしても、会社が一方的に取締役の報酬金額を減額すること(つまり、委任契約の内容を変更すること)はできません(最判昭和31年10月5日集民23号409頁、最判平成4年12月18日民集46巻9号3006頁)。
取締役の報酬を減額できる場合
上記のように、取締役報酬の一方的な減額をできない理由は、一度決定された取締役の報酬の金額が会社と取締役との間の委任契約の内容となることにあります。
しかし反対に、会社と取締役との間の委任契約の内容として、一定の事由が発生した場合に取締役報酬金額を減額する旨の定めがある場合には、当該定めに従い、一定の事由が発生した場合に、取締役報酬の減額をすることも可能です。
具体的には以下のような場合に、会社は合意に基づく措置として、当該取締役の役職変更を理由に、一方的に取締役報酬の減額を行うことができると考えられます。
①内規において取締役の職責等に応じて役職が設定されており、当該役職に応じて報酬金額が決定されているような会社であり、
②当該取締役が当該内規を了知していたケースにおいて、
③勤務態度上の問題から当該取締役の役職が変更された場合。
取締役報酬を減額できる場合の報酬変更の時期について
取締役報酬が定期同額給与(一定の期間ごとに支給する取締役報酬)の場合、変更後の当該取締役報酬を損金として算入するためには、原則として事業年度開始日から3か月以内に株主総会を開催し、株主総会議事録作成後に金額を改定して支払わなければなりません。
ただし、取締役の職務内容変更に伴うなどやむを得ない事情がある場合には、例外的に上記期間外の取締役報酬変更でも、変更後の取締役報酬について損金算入が認められることもあります。
このように、取締役報酬の変更については税務面についても注意が必要です。
まとめ
一旦株主総会決議(または株主総会決議により定められた報酬総額の枠内で行われた取締役会決議)において取締役報酬が決定された場合には、取締役に勤務態度不良があったとしても、一方的に当該取締役の報酬を減額することは原則として行うことができません。
例外的に、当該取締役と会社との間の委任契約の内容として、一定事由のもとに取締役報酬の減額をする旨が合意されている場合には、減額することができるケースもあります。しかしながら、このように取締役と会社との間の委任契約の内容として、取締役報酬を減額できる旨が合意されていると認定できるケースは、それほど多いものではないと考えられます。
したがって、当たり前のことではありますが、誰を取締役に選任するのか、当該取締役の報酬金額をいくらにするのかという判断は、慎重に行うことが重要であるといえます。
※この記事は、2023年12月19日に作成されました。