株主総会決議をしていない役員報酬があるのですが、どうしたらよいですか?
当社では、これまで役員報酬の株主総会決議は行っていなかったのですが、総会決議が必要なのでしょうか?これまでの分の報酬についてはどうしたらよいですか?
過去に総会決議を経ずに行われた取締役への報酬の支給についても、例外的なケースを除き事後的に総会決議を経ることにより有効なものとなりますので、過去の報酬についても総会決議を行うことを推奨します。
取締役への報酬の支給に総会決議が必要な理由
会社から報酬を受け取る当事者である取締役や、その取締役によって構成される取締役会に、自分たちの報酬額やその支給条件などを決めさせると、自分たちの報酬を多めに決定すること(いわゆる「お手盛り」)によって、株主の利益が害されるおそれがあります。
そこで、取締役ないし取締役会によるお手盛りにより株主の利益が害されることがないよう、報酬の額等の決定を株主の自主的な判断に委ねています。
株主総会決議が必要な「報酬等」とは
会社法上、株主総会決議が必要となる「報酬等」とは、取締役が職務執行の対価として会社から受ける一切の財産上の利益のことを指します。
金銭はもちろん、会社の株式や新株予約権、金銭以外の物についても、実質的に職務執行の対価として取締役に支給されていると判断されれば、広く「報酬等」に該当します。
株主総会で決議しなければならない事項
取締役に対して報酬を支給するにあたり、それぞれの報酬の種類に対応して、株主総会において決議しなければならない事項は以下のとおりです。
報酬の種類 |
決議しなければならない事項 |
報酬の額が決定しているもの | 金額 |
報酬の額が決定していないもの(例:ボーナス、インセンティブetc.) | 具体的な算定方法 |
株式や新株予約権 | 数量 |
株式や新株予約権を引き受ける対価として払い込むための金銭 | 取締役が引受け可能な株式ないし新株予約権の数量の上限 |
金銭以外の物(例:低賃料での社宅の提供、退職年金の受給権の付与、取締役の親族を受取人とする生命保険契約の締結etc.) | その具体的な内容 |
取締役個々人について、報酬の額を確定的に定めることも可能です。しかし実務上は、取締役全員の報酬の総額の上限について年単位または月単位で定め、その範囲内における取締役個々人への報酬の具体的な配分については、取締役会に決定を一任している会社が多いです。
なお、当該報酬に関する議案を株主総会に提出した取締役には、株主総会において、報酬の額ないし算定方法等が相当である理由を説明する義務があります(会社法361条4項)。
株主総会決議を経ない報酬の支給が過去に存在する場合の対応
株主総会決議を経ずになされた取締役に対する報酬の支給は、原則として、会社法361条1項に反し違法です。
もっとも、株主総会の決議を経ずに支払われた取締役の報酬について、事後的に株主総会の決議を経た場合には、当該決議の内容等に照らしてお手盛りの弊害の防止という趣旨目的を没却するような特段の事情があると認められない限り、当該取締役への報酬の支払は遡って適法なものとなります(最高裁第三小法廷平成17年2月15日判決・集民216号303頁)。
したがって、事後的であっても過去に支給した報酬について、株主総会決議を経るのが望ましいです。
※この記事は、2024年1月10日に作成されました。