退職する従業員から有給休暇の買い取りを求められているのですが応じなければいけないでしょうか?
目次
退職時の有給休暇の買い取りは義務ではなく拒否可能
退職時の有給休暇の買い取りは、拒否することができます。
労働基準法には、退職時の有給休暇の買い取りについて規定されておらず、退職時の有給休暇の買い取りは企業の義務とされていないためです。
ただし、企業が自社の就業規則等に有給休暇の買い取り義務を規定している場合には、拒否することができせん。
有給休暇の買い取りは原則違法だが退職時は例外的に適法
退職時の有給休暇の買い取り義務がない場合でも、企業が買い取りに応じることはできます。
前提として、本来は、有給休暇の買い取りは違法とされています。
労働基準法39条は「有給休暇を与えなければならない」としていますが、買い取りの対価として金銭を支給しても、有給休暇を与えたとは言えないためです。
また、労働基準法が有給休暇を定めた趣旨は、心身の疲労を回復させるためであり、買い取りを認めたら、この趣旨に反します。
しかし、退職時については、有給休暇は退職により消滅することになります。
また、退職後は有給休暇を消化できないのですから、残日数に応じた手当を支給しても、有給休暇の上記趣旨に反するとは言えず、むしろ労働者の利益になります。
そのため、退職時については、例外的に、有給休暇を買い取ること(=有給休暇の残日数に応じた手当を支給すること)も適法とされているのです。
退職時の有給休暇の買い取りを検討すべき3つのケース
退職時の有給休暇に応じることが企業として合理的なケースがあります。
例えば、以下の3つのケースです。
- 退職勧奨をしているケース
- 退職日を後ろにずらして有給消化されるケース
- 引継ぎが不十分になるケース
退職勧奨をしているケース
企業から従業員に退職勧奨をしているケースでは、退職時の有給休暇の買い取りに応じることが合理的な場合があります。
従業員に納得してもらえないと、退職してもらうことができないためです。
退職勧奨はあくまでも企業からのお願いにすぎませんので、拒否された場合には、有給休暇の買い取り等を含めて提案する退職条件を再検討することも選択肢となります。
退職日を後ろにずらして有給消化されるケース
退職日を後ろにずらして有給消化されるケースでは、退職時の有給休暇の買い取りに応じることが合理的な場合があります。
例えば、従業員が退職日にこだわっていない場合には、有給休暇を買い取ってもらえないのであれば、有給休暇を消化しきった後に退職するとの交渉をされます。
有給休暇が消化された場合には、給与の支払いが必要となりますし、社会保険料の企業負担分が発生します。
これに対して、退職時に有給休暇の買い取りをした場合には、退職所得としての処理になるため、社会保険料の企業負担部分が発生しません。
そのため、経済的な観点から見れば、企業としては、有給の消化よりも有給の買い取りの方が得であることになります。
引継ぎが不十分になるケース
引き継ぎが不十分になるケースでは、退職時の有給休暇の買い取りに応じることが合理的な場合があります。
従業員が退職日までに有給休暇を消化しようとして、十分な引き継ぎができない場合には、買い取りに応じて引き継ぎに協力してもらうことが穏当であることもあるためです。
退職時の有給休暇の買い取りの計算方法
退職時の有給休暇の買い取りについては、決まった計算方法はありません。
企業と労働者で話し合い計算方法を合意することになります。就業規則で買い取り制度を定めるのであれば、計算方法も規定しておくことになります。
一般的には、有給休暇を消化したのと同程度の手当を支払うことが多く、実務上は、平均賃金(労働基準法12条)により計算することが通常です。
退職時の有給休暇の買い取りと税金
退職時の有給休暇の買い取りをした場合に支給する手当は、退職所得として処理することになります(国税不服審判所平成23年5月31日裁決)。
企業は、所得税と住民税を源泉徴収する必要があり、支払い日までに従業員から退職所得の受給に関する申告書を提出してもらうことになります。
まとめ
以上のとおり、退職時の有給休暇の買い取りについては、就業規則等で制度を定めていないのであれば、必ずしも応じる必要はありません。
ただし、退職勧奨をしているケース、退職日を後ろにずらして有給消化されるケース、引継ぎが不十分になるケースなど、事案によっては買い取りに応じることが合理的な場合もあります。
※この記事は、2024年2月6日に作成されました。