持ち帰り残業は労働時間に含まれますか?
従業員の要求を拒否することはできるのでしょうか。
はじめに~持ち帰り残業とは!?~
持ち帰り残業とは、仕事を自宅に持ち帰って処理することをいい、「自宅残業」や「風呂敷残業」とも呼ばれます。所定労働時間が終了した後に、引き続いて「事業所内」で労務に従事する居残り残業等と異なり、「自宅」というプライベート空間で行われている点に特徴があります。
このような持ち帰り残業が発生する背景には、職場で処理しきれない仕事があるから自宅に持ち帰る、残業禁止により居残り残業が困難である、家事・育児の関係でいったん帰宅した後に残務を処理せざるを得ない、など様々な事情が存在します。
持ち帰り残業と「労働時間」
持ち帰り残業は、原則として労働時間に含まれません。
残業代の支払いが必要となる「労働時間」について、裁判所(三菱重工業長崎造船所事件-最一小判平12・3・9民集54・3・801)は、「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」と定義し、この「使用者の指揮命令」につき明示の指示のみならず黙示の指示も含むとしています。
したがって、自宅というプライベート空間での持ち帰り残業は、テレワークなど会社からの指示が明らかである場合を除き、「使用者の指揮命令下に置かれている」とは言いがたく、原則として「労働時間」とはいえません。裁判例(医療法人社団明芳会(R病院)事件-東京地判平26・3・26労判1095・5)も、労災の事案ですが、資料の作成を所定労働時間内に行うことを会社が許容していたこと、資料の作成がその性質や作業量から自宅に持ち帰らなければ処理できないものとは認められないことを理由に、持ち帰り残業の労働時間性を否定しています。
実際の対応時のポイント
もっとも、自宅であればすべて「労働時間」ではない、とは限りません。
本件の相談内容と異なり、相当の作業量を伴う業務を相当短期間のうちに遂行しなければならず、社員が自宅に持ち帰って作業せざるを得ない状況にあり、そのことを会社が認識していた場合は、会社による黙示の指示があったと認定されて、「労働時間」であると評価される可能性があります。
持ち帰り残業の管理は難しいですが、会社としては、従業員にとって作業量が過大なものでないか、自宅で作業をしていないかを確認したり、自宅で作業をせずに会社のパソコンで作業をするよう指示したりといった管理が必要となります。
まとめ
ご相談の事案も、会社側で持ち帰り残業の認識がなく、仕事量も勤務中に終わる分量ですので、「労働時間」に当たらず残業代の支払いは不要ですが、作業量が過大になると残業代の支払いが必要となる場合がありますので、作業量の管理には十分に気をつけてください。
※この記事は、2023年10月25日に作成されました。